ハルアトスの姫君―君の始まり―

『シャリアス…?』


口は動かしてみるものの出てくるのは息だけだった。
そしてようやく、シュリは今の自分を正確に認識した。


…私、伝えてない。シャリアスに…何も。


今となっては叶わないものだと、その時のシュリには思われた。
声が出ない。そして何より…『シャリアスがいない。』


その事実はシュリを打ちのめした。
もう会えないということはこういうことだったのか、と。
母が絶望し、ただ泣き続けた理由も今なら分かる気がする。
泣きたいのではない。泣くしかできないのだ。


いつの間にかシュリの目からは忘れかけていたはずの涙が零れ落ちていた。
声をあげて泣きたいくらいだったのに、壊れた心が声を発することを許しはしない。
ただ音もなく、涙だけがシーツに染み込んでいく。


会いたくても会えない時、想いを伝えきれていない時。
泣くことしかできないのだと知った。


魔力があってもなくてもそんなのは関係がない。
魔力があろうとも時間を巻き戻すことなどできないし、瞬間移動だってできない。
魔力は自然の力の恩恵を受けて成り立っている。自然を超越するような魔力は存在し得ない。


だからヒトも魔女も変わらないのだ。
目の前から大切な人がいなくなった事実をただ受け止め、涙するしか…。


そう思い、泣き続けて1週間が経った。
シャリアスのいない1週間など、よく自分が生きていられたものだと思うくらいだった。


その日、シュリの部屋のドアは開いた。