ハルアトスの姫君―君の始まり―



気が付けばシャリアスはずっとシュリのそばにいた。
友達ではない、けれど恋人ではない、そんな距離でずっと。
生まれた時からそばにいるのはシュリにとってもシャリアスにとっても当たり前で、恋するのが、そして愛するのが必然かのように…愛した。どちらからともなく。


二人の距離が友達でも恋人でもない距離から『恋人』に変わったのは、戦いが故だった。


第一次ハルフェリア大戦が始まり、シュリの父親をはじめとする魔法使いが駆り出された。
あの日の母の憔悴しきった表情を今でもシュリは鮮明に覚えている。
毎日を泣き暮らし、シュリはただそれを支え続けた。
『大丈夫よ、お母様。きっとお父様は帰ってくる。戦争なんてすぐ終わるわ。』とだけ繰り返して。
そんなのは現実じゃないし事実でもない。ただの願いだった。
壊れそうな言葉を繰り返して、それでも母は泣き通しで、そんな陰鬱な日々を繰り返しているうちに先に壊れたのは母ではなくシュリだった。


―――シュリは言葉を失った。
母に同じ言葉を繰り返すことさえできなくなった。


壊れかけの母と壊れた娘の住む家は呆気なく崩壊し、大戦が始まって1年で母親は死んだ。偉大な魔女だったのに…最期は驚くほど呆気なく、そして切ないものだった。


シュリは涙さえ出なかった。
感情という感情の一切が壊れてしまったかのようだった。
もはやイキモノでもなんでもない、そんな気さえするほどだった。


言葉を失い、感情も失っていたシュリのそばに、シャリアスはいた。
毎日料理を作り、言葉を掛けてくれた。
笑顔を絶やさずに、ただ傍にいてくれた。


そんなシャリアスが突然家を訪れなくなったのは、まもなくしてのことだった。