ハルアトスの姫君―君の始まり―

【シュリside】


「それにしても…シャリアスか…。」


シャリアス、それはシュリが愛した最初で最後の男だ。
重ねた唇もその温度も、100年経った今となっても鮮明に思い出せる。


「私を殺しに来た…か。」


本人だと断定出来たわけではない。
それでも本人ではないと言い切れるわけでもない。
…結局のところ、そこが問題だった。
自分の目で見なくてはシャリアスかどうかは信じることができない。
…それが現実から目を背ける行為だとは分かっていてもなお。
同じ容姿で同じ名前の人間が存在するはずがない。それに、シャリアスには『力』がある。どういう経緯かは知らないが、可能性としてはレスソルジャーを統べる者になっていてもおかしくはない。そういう現状を理解することはできる。
だからこそ、この目で見るまでは信じたくない。それは甘えなのだろうか。


窓から外を眺める。
最後の時を過ごしたのもこの部屋だった。


目覚めたら隣にシャリアスはいなかった。
それがどれだけシュリを絶望させたかは、きっとシャリアスも知らないだろう。


涙の一つも零れないほど冷たい気持ちだった。
そして悟った。
―――失うとはこういうことなのだと。


「…やけに思い出すな。…最悪だ。」


消したい記憶ではない。
だけど今、思い出したくはなかった。
それでも一度思い出し始めてしまったらもう消えることはない。


記憶は記憶を呼び起こす。
良し悪しで選ぶことなく、ただそのままに。


記憶は時に残酷だ。