野菜が万が一、売れ残ってしまっても。

 生鮮物の販売部門は午前中一杯までだから。

 片付け込みでも、ハニーは、僕のステージの見学に間に合う予定だ。

 僕の説明に、直斗は、興味深そうに、へええ、と相づちを打った。

「でさぁ。
 螢は、マジ、どんな踊りを踊るわけ?
 ハインリヒの前だけじゃなく、ご近所さんにも見せんだろう?
 しかも、祭りの一番最後、なんてよっぽど自信あるんだなぁ」

 幼稚園の演芸会で見たそうな、どじょうすくいだったら笑ってやる~~なんて。

 けっこう意地悪いクソガキの額をこずいた。

「まあね。
 そこそこは、踊れるぜ?
 この家に来るまでほぼ、ステージで飯を食ってたし」

 僕は、昔。

 暴力団の息のかかった妖しい店で。

 表向きは、ホストクラブみたいな、水商売をしてたんだ。

 ダンスで直接、飯を食ってたワケじゃないけど。

 ステージで踊りが上手くなけりゃ、客の指名がつきにくい。

 そんな中で僕は『雪の王子』なんてあだ名がついたほど、人気があったんだ。

 街のカルチャーセンターに通う、主婦よりは、上だって言っても言い過ぎじゃないはずだ。

 プロみたいに上手いなんて、口が裂けても言えないけれと。

 その次ぐらいに踊りきるぐらいの、自信はあった。

「ふーん。
 じゃあ、明日の踊りも、その昔踊ってたやつなんだ?」

「……いいや」

 言って、僕は肩をすくめた。

「看護職を目指すにあたり『雪の王子』は、完全廃業したからね。
 その頃の踊りはもう、やんないよ」

 そもそも、当時のそれは。

 子供が見ているような場所で踊る、健全なダンスじゃなかったし。

 かなり、下品だ。

 僕はそっと息をついた。

「昔から、ステージでは踊らなかったけど。
 基礎体力をつけるつもりで、看護師よりは長く、踊ってるヤツがある。
 ……明日、僕が踊るのは、フラメンコ、だよ」