今まで瞳を伏していたのに、この問いだけは顔を上げヴラドを見詰めて言った。


理知的で、いつも冷静な怜央の瞳が潤んでいた。


大人のような物言いに、つい忘れてしまいそうになるが、怜央はまだ16歳なのだ。


息子の涙にぐっと胸が詰まったヴラドであったが、その唇から出てきた言葉は冷徹だった。


「もって、二十歳までだろうな」

二十歳……。


怜央は拳を握りしめた。


脳裏に浮かんだのは茜の笑顔だった。


「二十歳とはいっても、今はもうギリギリだ。いつ覚醒してもおかしくない。

お前が力をコントロールして感情を昂(たかぶ)らかせずに、騙し騙し生活していくしかない」


感情が殺されたかのように、ヴラドの言葉が妙に遠くで聞こえる。


「バド…なんとかっていう執事と会ったんだ。母さんとも知り合いだった。

あいつも人間じゃないんだろ? 親父や母さんも人間じゃないのか?」


「俺と真央は人間だ」


「じゃあなんで俺だけ! 俺は親父や母さんの子供じゃないのか!?」


「お前は俺と真央が真実愛し合って生まれた子だ。二度とそんなくだらないことを言うな」


ヴラドの蒼い双眼に、一瞬怒りの色が映った。


あまりの迫力に怜央は項垂れるしかなかった。