「キルリアだ。
俺の本当の名前は、キルリア・ツェペシュ」


「キルリア……? 日本人じゃないの?」


茜の言葉にキルリアは愉快そうに口角を上げた。


そしてその形のいい唇がゆっくりと動く。


「ヴァンパイアだ」


「……え?」


茜が一歩たじろぐと、キルリアは離れられないように茜の腕を掴んだ。


「君は特別だと言ったことを覚えているか?」


茜は怖くなってきて、手足が震え出した。しかし瞳は磁石のようにキルリアの瞳から離せなかった。


「質問しているんだ。答えろ」


キルリアの口調がつららのように冷たく鋭くなっていたので、茜は慌てて首を縦に振った。


覚えている、という意味だ。


「いい子だ」


キルリアの口調がまた優しくなる。


しかし、優しくなっても怖いことに変わりはなかった。


むしろ怖さが精練されていくようだった。