脳に焼き付けて忘れないようにするために。


それでもきっと、忘れてしまうのだろう。


寂しく切ない気持ちが胸を絞めてつけていたが、忘れたいとは思わなかった。


辛いこともあったけれど、大事な思い出だ。


だから、レオの母親が記憶をなくしたくないからヴァンパイアになることを拒んだ気持ちが日向には分かる気がした。


「お兄ちゃん、何してるの?」


聞き知った声が耳に届いて、日向は驚き振り返った。


そこには身体に合わない大きなランドセルを背負った義理の弟がいた。


「謙太(けんた)……。
俺が誰か分かるんか?」


謙太はくりくりの大きな瞳で日向を見つめ、首を傾げた。


「知らないよ」


……そりゃそうやろな。


日向は苦笑いを零した。


紛らわしい名前で呼ぶなや。


心の中で勘違いしてしまった自分に自嘲しつつ、久しぶりに見る弟に懐かしさを感じていた。