一人娘なので大切に育てられた。


心配性の母親に余計な気苦労をかけさせまいと、茜は母親が望む通りの返事をした。


しかし、母親は何かが引っかかっているようで、首を傾げた。


「ねぇ、いつも誰かと一緒に登下校していなかった? 
お母さん、茜がその人と一緒だと安心できたような気がするんだけど……」


「いつも、一人だよ」


「そうよね。そうだったわよね。
お母さん、誰と勘違いしてるのかしら」


「やめてよ。ボケるには早すぎるよ」


「まあ!失礼な。
お母さん、茜が結婚して子供産むまでは意地でも元気でいるわよ」


茜は苦笑いしながら、プチトマトを口に入れた。


プチンと皮が弾けて、酸っぱい風味が口の中でどろりと広がった。


私は誰とも結婚しない気がする。


ごめんね、お母さん。


胸の中に広がる空虚感は、恋愛する気力を頑なに拒んでいた。


もう心の中に決めた相手がいるように。


その人以外、決して好きにはならないと決めたかのように。


もちろん茜は、自分の中に愛する人がいるとは気付いていない。


拒む気持ちは、本能のようなものだった。