白い世界が広がっていた。


何もない、色もない、そんな世界。


『茜……』


白い世界の中で、漆黒の髪に制服を着た男が茜の名を呼んだ。


顔は黒い靄のようなものがかかっていて判別できない。


『茜……』 


甘く優しい声。


その声で名前を呼ばれるだけで、茜は幸せな気持ちになった。


『茜……』


男は茜の名前を呼びながら、遠ざかっていく。


茜は途端にひどい焦燥感に襲われた。


「待って! 行かないで!」


茜は手を伸ばして男を呼び止める。


男はどんどん遠ざかっていく。


「待って!待って!嫌っ!行かないで!」


茜の叫びも空しく、男は白い彼方に消えていく。