「俺の両親は俺が赤ん坊の時に事故で死んで、それから施設で育ってん。
柊木の両親は長い間不妊で悩んどってなぁ。
病院継がせるために養子をもらうことに決めてん。
将来は医者にしたいから頭いい子が欲しかったらしくて、色んな施設の中で一番IQが高かった俺を引き取ったんや。

その時、俺は7歳だった。

最初は良かったんやけどな、俺も期待に応えよ思ってガラにもなく頑張っとったし。
けどな、俺を引き取ってから2年後二人に子供ができたんよ。
しかも男の子やった。

柊木家に俺はいらん。
捨てるなり、無視するなりしてくれても良かったんやけどな、柊木の両親は優しくて子供が生まれた後でも俺のことを気遣ってくれてた。

子供もいい子でなぁ、頭はいいはずなのに勉強しようとせんねん。
俺が親戚中からないがしろにされて肩身狭い想いしてるん感じ取ったんか、俺に病院継がそうとすんねん。

自分は医者になんかなりたくない言うてな。
兄想いの優しい弟やねん。

だから、俺がいなくなって、俺の記憶も全部なくなってくれてほっとしてんねん。
あの優しい両親と弟に悲しい想いさせたくなかったからな」


「そう……だったのか」


「安心はしたけど、やっぱり記憶がなくなっていくのは寂しいなぁ。
俺の記憶はなくなってもかまわへんけど、俺はあいつらのこと覚えていたいなぁ。
せやけど、これ以上求めるのは贅沢やな。
俺には立派すぎるほどのいい家族だった。あんまり多くを求めたらあかん」