「もういいよ、もう充分だ! 
親父も母さんも自分のことばっかりで、俺のことなんかこれっぽっちも考えてくれていない。
俺が一人で魔界でどう過ごそうが関係ないんだ。
だから嫌なことは全部俺に押し付けて……」


レオの言葉を遮るように、ヴラドの平手がレオの頬を叩いた。


レオは一瞬、何が起きたのか分からなかった。


「……それは違う。全部お前のことを思ってのことだ」


ヴラドの顔が苦痛で歪んだ。


叩かれた方より、叩いた側の方が痛そうだった。


レオは何も言わずにヴラドを睨みつけた。


そして、大きく息を吐くと踵を返した。


ショックで瞳から涙が零れている真央を一度も見ることなく、レオは部屋を出て行った。


玄関を出て外に行った音が聞こえたので、バドは慌ててレオを追いかけようとした。


すると「やめておけ」とヴラドに止められた。


「ですが……」


「あいつは自分で学び、道を見つける」


ヴラドは泣き崩れる真央を抱きかかえながら、レオが出て行った扉を一心に見つめていた。


「大丈夫だ。あいつは、俺の子なのだから」


その言葉はまるで、自分自身に言い聞かせているようでもあった。