「違うの、怜央。悪いのは全部あたしのせいなの」


静まり返った空気の中、真央がポトリと一滴の水が落ちるように言葉を発した。


キッチンから出てきた真央は、瞳に涙を浮かべてレオを見つめた。


「あたしが、ヴァンパイアになることを拒んだから。
だからヴラドもヴァンパイアに戻ることを諦めたの」


「どうして……」


「血の儀式はね、とっても危険なの。
お互いの命すら奪いかねない行為なの。
それに……。
人間が魔族になるとね人間だった頃の記憶が徐々に薄れていくんだって。

人間だった頃の記憶があると、魔族として生きにくいから本能が消してしまうらしいんだけど、あたしは人間だった頃の記憶は消えてほしくないの。

とっても大切な思い出が詰まっているから」


真央はヴラドの方に顔を向けると、ヴラドは真央を包み込むような慈愛に満ちた眼差しを返した。


ヴラドは真央の意思を尊重し、数百年生きられる命を自ら捨てた証だった。


「母さんは、俺より記憶を取るのか?」


レオの言葉に、真央の肩がビクっと上がった。


「怜央っ! 真央は真央なりにずっと悩んでいたんだ!」


ヴラドは真央を庇うように言った。