「いやでも。モカもいいかな。あ、このマンダリンコーヒーって何だろう」
ぶつぶつと呟くこと数秒。
お盆を持つ手が小刻みに震えてくるのは、ずっと待たされてることへの苛立ちからだ。
もうキレそう。
でも私が悪いんじゃないわよね。
甘ったるい男は嫌い。
ふにゃふにゃした男も嫌い。
だけどあたしが一番嫌いなのは、こういう優柔不断な男よ!!
「あの、ご注文はお決まりなんですよね」
亀裂が入りそうなほど冷たい声に、先生も子どもたちも一瞬顔を強ばらせる。
それでも一応愛想笑いだけは貼り付けてるんだけど、子どもたちは慌てて「先生はやくぅ」と急かし始めた。
「あっ、すいません。えーっと、どうしよう。えーっと」
「ブレンドですか?」
「いや、あの。……あの。お勧めはどれですか?」
ついに男は考えることまでも放棄して、あたしにそう聞いた。
ざけんな。
それ聞くなら最初っから聞けよ。
ああもう、ぶち切れ寸前。
いや、ちょっと切れてたかも知れない。
「じゃあ、ウィンナーコーヒーなんていかがですか」
別にお勧めでもなんでもないコーヒーを言うと、男は助かったとでも言うように
「じゃあ、それで」
と笑った。



