親父は、本当はマサに跡を継がせたかったはずだ。

まだ学生だったとき、調理学校の皆でこの店に来てケーキを食べて、その味に感動したというマサは、立ちあがって拳を震わせた。

そしてあたしにケーキを作ったのは親父だって事を聞くとすぐに、バイトを申し出たのだ。

あの時の親父は涙目で、本当に嬉しそうで。
マサのケーキ作りの腕を見てますます目を輝かせた。

あの頃から、親父はいつかマサにこの店を継がせたいと思っていたのだろう。


だから密かに、あたしとマサが上手くいくようにとずっと裏工作をしていた。

やたらに二人きりにされたり、先に家に帰るあたしをわざわざマサに送らせたり。

だけど、あたしたちの間に恋愛感情は全くなかった。

マサが和美ちゃんとお付き合いを始めた時、一番落胆したのはこの親父だったかもしれない。


そう考えると、なんか申し訳ない気がする。
あたしの料理の腕前がもっと良ければ、あたしが後継ぎだということで落胆させることなんかなかったのに。