そんな日々が続いたある日。
あたしが朝『ショコラ』に出勤すると、やたらに甘い匂いが鼻をついた。
「あれ、マサ?」
厨房でマサが何やら作っている。
「よう、おはよ。詩子」
「なあに? 今日はマサが作ってるの? 父さんは?」
「違う。これは私用で。
あ、ちゃんとマスターには厨房借りますって言ってあるから」
「ふーん」
マサの手元でつくられていくのは、白いクリームのスポンジケーキ。
これからかざるんだろうバラの飴細工が傍に置いてある。
綺麗な艶のある赤い花びら。
これだけの飴細工を作るのは大変だったろう。
そして、これだけの労力を使ってマサが喜ばせたい相手は一人しかいない。
「和美ちゃんにあげるの?」
「ああ、今日誕生日なんだ」
「へえ、二十歳になるんだっけ。じゃあ今度飲みに誘おう」
「飲ませ過ぎんなよ」
「わかってるわよう」
照れもせず、一心にケーキを仕上げるマサが何だかほほえましい。
誕生日に手作りのケーキをもらうなんて、きっと嬉しいんだろうな。



