それから、毎日のように宗司さんはやってくる。
といってもする行動はいつも同じ。
カウンターの一席を陣取り、参考書を広げながらケーキを食べる。
変わったといえば、ケーキを自分で選ばなくなったところ。
「詩子さんの今日のお勧めください」
あたしの顔を見るなりそう言って、ご機嫌良く席に着く。
まあ、あたしも正直目の前で悩まれると苛々するからその方がいい。
「ティーミルフィーユとブレンドコーヒーでいい?」
「うん」
参考書を広げ、シャープペンを持ったまま考え込むように顎を撫でる。
こんな風に黙っていると、妙にシャープな印象になってものすごくドキドキする。
「あ、また来たのか」
厨房から覗いてそう言うのは親父。
どうも宗司さんの事はあまり気にいらないらしい。
「お客さまよ。余計なこと言わないで。ティーミルフィール切ってきて」
「ちっ、分かったよ」
親父を急かして、作らせる。
邪な感情があったとしてもそこは仕事人。
出来上がってくるケーキの細工は見事なものだ。



