「俺は」
親父が、視線をそらして遠くを見る仕草をする。
情けないオッサンが、少しだけイケメンに見える瞬間。
「詩子のカレーが食べたかった」
まだカレーにこだわってんの?
しつこいな。
「あたしなんかより、父さんが作った方がおいしいじゃん」
「ちがう。詩子じゃなきゃできない料理もあるんだ」
「……」
それは何だか嬉しいかも。
「市販のルーを使っているのに、なんであんな面白い味になるのか不思議で仕方がない」
前言撤回。
余計なことばっか言うんじゃないわよクソ親父。
何か言い返してやろうかと口を開いた時、マサの大きな声が聞こえてきた。
「ええ。居ますよ。少々お待ちください」
お客さんかしら。
早く食べて戻らなくっちゃ。



