ショコラ~恋なんてあり得ない~



 お昼の時間を過ぎ、お客の波がスーッと引いていく。


「詩子、お昼入れば」

「あー、うん」

「何か作ってやろうか」


奥からそう言うのは親父。


「雑炊食べたい……」


ポツリと、この店で絶対に出なさそうなものを口に出す。


「分かった。待ってろ」


予想外に親父は頷き、冷蔵庫の中をあさりだした。

この店に、お米なんかないわよ。
フードメニューはサンドかパスタしかないもの。
そう思いつつ、お客の居なくなった店内のカウンターの一席に座る。

マサが無表情のまま手を出すから、反射的にはたき返す。


「何すんだよ!」

「なによ、この手」

「昨日立て替えた分の金、よこせよ。二千百円」

「ああ、忘れてた」

「お陰で和美におごってもらう羽目に……」


そこまで言って、ハッとしたように顔を赤くするマサ。

ああ、照れちゃって。
からかいがいがあるなぁ。