それでも、仕事が始まれば動けるのがあたしという人間だ。
開店後一番目のお客様の入店と共に、いつものお愛想笑いが顔に浮かぶ。
今日は無理をせず、注文は聞いてすぐ書きこむことにする。
自分の体調を把握するのも、大事なお仕事。
うっかり失敗するくらいなら、多少の手間がかかっても安全なやり方を採用すべきだ。
いつもの常連客。
主婦の趣味の集まり。
お昼にはビジネスマン。
いつものように色んなお客様が行きかう。
忙しさは、余計なことを考えない為にもいい事だ。
なのに、あたしの目は何故だか入口の扉にばかり向かう。
……来る訳ないわよ。
大体、昨日あんな醜態を見せておいて合わせる顔がない。
いや、別に会いたい訳じゃないわ。そうよ、会いたくなんか無いわよ?



