親父は、確かにうだつも上がらないし、腹立つことも多いけど。
これだけはすごいと思う。
繊細なクリームの造形、色どりの良いフルーツが一つの芸術作品のようにそのスポンジの上におさまっている。
あたしだって、一応は調理師免許を持っている。
向いてないっていつも言ってたけど、いずれ跡を継ぐかもしれないことを考えれば、手は抜けなかった。
不器用なりにたくさん練習だってした。
だけど、親父みたいにこんな風に綺麗なケーキは作れない。
「悔しい」
何故だか、素直に言葉が出た。
というか、二日酔いがキツイから、意地を張るほどの元気が無い。
レモン水がおいしくて、何だかちょっと切ない。
そうよ。
こんな風にいつも、親父をこき下ろしているけど。
本当はあたしは悔しいの。
どうあがいても敵わないなら、好きになんかならない方がいい。
本当はこんなケーキが作りたい、なんて。
「口が裂けても言うもんかっ……!!」
テーブルに拳を打ちつけると、グラスの氷がカランと鳴った。
意地っ張りの自分がたくさんの水滴の中にうつってる。
弱音を考えてしまった時点で今日はもういつものあたしじゃない。
悔し紛れに、水滴を一つ弾いてやった。



