「詩子さん」
「何よ! しつこいわよ」
「ん」
「え?」
恥ずかしさを誤魔化したくって怒りの形相で振り向いたあたしに、宗司さんからは不意打ちのキス。
それは一瞬だけ触れて、すぐに離れたけれど。
ちょっと待ってよ。ここは天下の往来ですけど?
ヘタレでおどおどしてるくせに、どうしてこういうことだけは出来るの!
「人前で何すんのよぉぉぉぉ!」
背中をバシンとど付きながらの雄叫びで、辺りの人々はあたしたちに注目し始めた。
あら、むしろ目立ってしまった?
「逃げよっか」
宗司さんは恥ずかしそうな様子も見せずに、笑いながらあたしの手を引っ張った。
それは赤くなった頬も激しい心音もごまかすのに丁度良かったから、あたしは勢い良く駅まで全力疾走した。



