あたしは全速力で走った。
しばらく運動なんかマトモにしてないから、すぐに息が上がって、苦しいけど。
でも段々宗司さんの背中が近付いてるから、諦めるなんて勿体ない。
「そ、はあ、そう、はあ、じ、さん」
これは名前を呼べているのか。
明らかに呼べてないだろうと思うけれど、彼は振り向いた。
「……詩子さん?」
あたしが追いかけてきてる事にそこで気づいたらしく、驚いた顔で近付いてくる。
肩で息をするあたしに伸ばしてきたその手を、あたしは強い力で払った。
「あり得ない!」
「え?」
「はあっ。言い逃げ、とか。あり得ない」
宗司さんは顔を赤くして、それを隠すように顔の前で両手を振る。



