「緊張してたから。ここにきてようやくホッとしたかも。ブレンドコーヒーもらえますか」
「は、はい」
今日は特別に良い豆を出してあげよう。
いつもとは違う珈琲の缶を捜しだすと、脇からそれが奪われた。
顔をあげると、親父が缶を持ってあたしを見てる。
「詩子、もう仕事上がりだろ?」
「い、いいわよ。今日はサービス残業」
「良いから。お前も座れ。俺がいれてやる」
「父さんが?」
促されて、エプロンを外して宗司さんの隣に座る。
上目づかいで見上げると、彼も不安そうな表情であたしを見る。
なんなのこの空気。
説教でもされそうなんだけど。
親父は親父でマイペースに珈琲を入れて、あたしと宗司さんに差し出した。
あれ、香りがいつものヤツだ。
親父め! 豆を変えたわね?



