ショコラ~恋なんてあり得ない~


 その日の午後。
もうじきあたしの仕事上がりだっていうような時間に、その人はやってきた。

五センチの高さのある小粋なパンプスを履きこなし、体のラインが綺麗に出るタイトなスーツに身を包んだその人は、あたしの母親桂木康子だ。


「やほー、詩子久しぶり!」

「お母さん」


屈託のない笑顔を浮かべる。
年齢のせいか目尻には軽く皺が寄ってるけど、見た目はとても若々しい。


「珍しいわね。店に来るなんて」


離婚以来、あたしと会う事はあっても店に来ることなんてなかったのに。


「うん。まあね。隆二くんに聞いたのよ。詩子が考案したフラッペを今店に出してるって」

「親父から?」

「だから食べに来たって訳。出してくれる?」

「う、うん」