ショコラ~恋なんてあり得ない~


必要条件ってなんだっけ。

聞いた事あるな。数学だっけ。
でももう忘れたわ。
つか、思い出したくもない。


「同じように、客が何度も来る店の必要条件は客の事を考える店員だ」

「……」


親父の視線が、あたしに注がれる。


「俺は昔から、自分の仕事に集中してしまう癖があってな。

ケーキに過度な装飾はいらないと、他のパティシエに言われても自分の主張を変えられなかった。
結果、店にはいらないと言われ、転職を繰り返す羽目になる。

だったら俺が自分の納得のいく店をつくればいいんだと、そう思って始めたのがこの『ショコラ』だ。
お前の母親、康子さんが猛反対したのも、俺のこの性格を知ってるからだ。
店を切り盛りできるほど器用じゃないってのが、彼女は身にしみて分かっていたのだろう」

「そうだったの」


で、話が決裂して離婚したのね?