「宗司さん、いらっしゃい」
「あ、詩子さん!」
ぱっと宗司さんの顔が晴れて、あたしに視線が注がれる。
何なの、その忠犬ハチ公みたいな態度。
こっちがたじろいじゃうじゃないの。
「し、試食よろしくお願いします」
「はい」
この間ケンカ別れした時の気まずさは、先日の電話でどこかへ行ってしまったのだろうか。
宗司さんはにこにこで気にした様子もない。
ちょっと気にしてた自分がバカみたいじゃないのよ。
「お腹壊さないでね」
そう言いつつ、厨房に戻る。
ほーっと溜息が出て、肩から力が抜けた。
「良かったな」
「え?」
にやりと笑うマサ。
腹が立つのは何故なのか。



