「すいませーん、注文」
窓際の席から声がする。
あたしの不機嫌さを察知したマサが、慌てて注文をとりに行った。
動きが素早いな。苛立ちが顔に出てるのかしら。
ダメダメ。仕事中はスマイルスマイル。
「あれぇ? 無いなー」
目の前の男は慌てたようにポケットの内布を引き出す。
出てきたのは皮製の二つ折りのモノだった。だけど財布ではないらしい。
困ったように定期を見せられたって知るかってのよ。
「せんせー。どうしたの?」
「や、財布が……。あれー?」
あれーじゃないわよ。
無銭飲食かよ。
そのまま鞄の中や胸ポケットとかを探すこと五分。
あたしの我慢も限界ギリギリ。



