「これを見てください! 僕の過去の出演ドラマです。
演技の経験はありません。
毎日稽古はしていますが…」
そのプロフィール用紙には、過去の経歴が書かれていた。
しかし、その出演どれもが大役ではなく、エキストラの通行人・良くても一言会話する『屋台の従業員』など、その程度のものである。
今回も、同じような役割かと思ってた矢先の出来事なので、まず自分の今の『実力』、その立ち位置をプロデューサーに説明した。
「……」
少し用紙を眺めるが、すぐにそれをポイッと横に捨てた。
「過去の経歴、演技力は関係ない。
今回の監督の意向は、あくまで外見・雰囲気・声にこだわった選抜だ。
さすがに撮影を何も知らない、全くの素人の選抜はしなかったが、ある程度俳優の卵くらいの君達から選抜を設けたのだよ。
演技なら何回でも撮れば、それらしい形になる。
それが今の君に出来るか……
忍耐力だけを聞きたい」
なんと…
噂には聞いていたが、羽場監督は相当なくせ者らしい。
前代未聞の抜擢方法。
一つの妥協も許さず、選ばれたのが石垣である。
その肩にかかる重荷は、耐えられるか?
しかし、一世一代のチャンス。
演技をやっていれば、俳優になりたい気持ちが出ないワケはない。
ここで断る者はいない。
即決で、自分の道を決めた。
「大丈夫です…
演技の為なら何度でもやります」
その言葉で交渉成立。
正式に、キャストとして選ばれた



