「あ、そこのマンションだから」
車中話しで聞いていたが、天崎は1人暮らし。
予想を越す立派なマンションだ。
「すっごいねここ、メチャクチャいいとこじゃん」
「女の一人暮らしだからね。セキュリティーがしっかりしたとこを選んだの」
自動ドアに暗証番号+指紋センサー。
奥にはドッシリ構えるエレベーター三機。
とてもじゃないけど、興味があっても家賃は聞けなかった。
「じゃあ送ってもらってありがとね、コウ! また明日の撮影で」
そうだ、すっかり忘れていたが、明日も早い入りの撮影があった。
「ああ、気をつけて帰ってな」
つい出たありきたりの言葉に、天崎はクスりと笑う。
「気をつけてって、そこの入り口まで? アハハ、それじゃあ」
車から降りて、天崎は長い髪を靡かせ去っていく。
職業病ではないが、ドラマのワンシーンのようだ



