ガチャリ……
静かに入って来たのは、話の通り羽場監督。
この時には、既に先程のざわめきは一切なく、息を殺すように静まりを見せていた。
あれが羽場監督……
様々なドラマや映画を手掛け、超の付くほど名監督その人だ……と誰もが思っているだろう。
石垣もテレビ越しではなく、間近でみる監督のその威圧感たる姿を捉えていた。
そう眺めていると、その監督が真っ直ぐ近付いてきた。
(え…?え…?)と心の中で焦る石垣を、周りは気付いていた。
確実に目が合い、だんだんと近付く…
何でこちらに来るかの理由が、見当もつかなかった。
『お前はなんだ? ここに来るような輩ではない』と怒鳴りつけられるのか?
そんなマイナスな考えも頭に思い浮かべつつ、ついに監督と対峙した。
「君……ちょっと声を出してくれる? あーあー、とか」
監督から、いきなりの頼み事。
言われるがまま、全く同じセリフを吐く。
「あー……あー……」
ハッ…!
それを言って、しまったと思った。
せっかく監督自ら歩み、声を出せと言ってるのに、こんな単調な単語を言うだけなんて…
もっと他の言葉があるのに、アピールのチャンスを棒に振ってしまったようだ。
周りの視線も、そう言ってる気がする。
俺ならもっとうまくやる……
俺なら自分のアピールも含めながら、声を出す……。と……



