「ああ、悪いね。俺の横置いてくれる?」
石垣が屈んだ状態で後ろに声をかけると、女の子は道具箱を横に置いてくれた。
「ここでいいのかしら?」
「ああ、いいよ。大丈夫。
さってと……レンチレンチ……」
工具箱を開けると、そこには真新しい新品同様の工具が、ズラリと並んでいた。
「うっわ新品……
スタジオじゃ滅多使わないのかな?」
それを惜しみなく取り出し、ネジを締め始める。
「いいえ。これは演技用の工具よ。
だから新品なの」
そんな物もあるんだ。
成る程と小さく言い、修理に専念する。
「……へえ~。
そこを閉めると止まるのね。全然知らなかったわ」
隣にまで来て、石垣の手さばきをマジマジと見た。
さっきの慌ただしい素振りとは違い、えらい積極的な娘だ。
でも、こんな感じの方が気さくで話しやすい。
芸能人オーラがない人の方が、やっぱり自分の肌には合うと実感する。
「昔、アルバイトで水道管修理の経験をチョットね……
こうしてる方が落ち着くよ。
んん、しょっと……
あの控え室で芸能人オーラに
潰されるより、気が楽だよアハハ」
それを聞いて、後ろでクスッとした声が聞こえた。
どうやら、一般人にしか分からない自分の気持ちが、理解出来たようだ



