今までこんな事はなかったのだが、急に演技が出来なくなってしまった。
順風満帆が、ここへきて風向きが変わったようだ。
すっかり自信を無くして、石垣はトボトボと帰って行く。
何だか、スタッフの目が冷ややかに見えるのは、石垣の精神状態が不安定だからである。
「……!」
視界に天崎の姿が見えた。
初めて出会った水飲み場の休憩所の壁に、誰かを待つようにもたれ掛かっている。
(気付かないフリをしよう……)
目も合わせずに、前でを通過しようとすると……
「やっぱりおかしい」
天崎はそう言い、その一言に振り向いてしまった石垣に近付く。
「コウ、今私に気付いてたよね? いつもなら話し掛けるのにおかしいよ。演技も意識が散漫してたし、何かあったの?」
もしかして、石垣を待ってくれてたのか?
そうにしても、その優しさは今の彼にはいらないものだった。
「いや……その……」
少し躊躇う姿を見て、天崎は気を使って誘ってきた。
「ここじゃ話しにくい? よし! じゃあ今日も店に行くよ! いい?」
行きたくない。
今更2人で食事なんて、行きたくないのだが……
そんなキラキラした目で言われたら、無理に決まってる。
「ああ……行くよ」
断れずに、浮かれない食事が決定した



