「書けたかな? 書類」
プロデューサーは入口のドアを開けて少し顔を出し、先ほど渡された履歴書をせがんできた。
椅子も座らず、ドアのとこで立ち話するくらい急いでいるのだろうか?
まあ、プロデューサーも忙しい身だ。
キャストが決まれば、ドラマに向けての仕事を動かさなきゃいけない。
「はい……できました……」
また渡してから、しまったと思った。
天崎優の事ばかり考え、重要なところ以外は、ほとんど白紙のまま提出してしまった。
石垣康広と言う人間は、このように慌てて行った行動の瞬間、すぐ過ちに気付くタイプの性格である。
自分自信もこの性格を理解しており、言葉とかでも失礼な事を言いかけて気付くので、頭の回転を良くしたいと悩み中のようだ。
そんな、どこにでも居そうな、ありふれた平凡な性格。
それが本当に、あの大女優と共演していいのだろうか…?
「あ、あの……!」
書類を持って、次の現場に行こうとしたプロデューサーを、石垣は引き止めた。
「……何だね?」
「本当に……
本当に僕なんかが主役でいいんですか……?
相手はあの天崎優さんだし…
大物女優側としては、新人俳優なんかと演技するのは屈辱なんじゃないでしょうか?」
そう言うと、プロデューサーは何の表情も変えず、黙って石垣を見つめる



