何も言えずにただじっと見てると、椋ちゃんのまぶたがゆっくりと上がる。

ぼんやりとした瞳が、あたしを見た途端、ふっと優しい微笑みを浮かべた。


「咲良……」
「え……」


愛しそうに見つめてくる瞳。
優しく呼ばれる名前。

椋ちゃんが、伸ばした手であたしを抱き寄せる。

ぐいって、ベッドに引きずり込まれるみたいに抱き寄せられて……中途半端な姿勢のまま動けなくなった。

だって、椋ちゃんが抱き締めてくれるとか、普段だったら絶対にありえないから。

びっくりしていた気持ちに、じわじわと嬉しさが広がっていく。

なんでこんな事になってるのかは分からないけど、椋ちゃんがこのまま寝ぼけててくれないかなーなんて。

そんな風に思って目を閉じた。

据え膳だもん。女だって、食わないと損しちゃうし。