空になったミネラルウォーターのボトルを振って、そう無表情に駄目だしされた。
先程の無礼な諸行とその図々しい態度に、私は深く眉を潜める。
(…まずいなら飲まなければいいのに)
ドキドキ、と。意味もなく心臓は高鳴っている。唐突で、冷たく、痛みを伴うキスを思い出して。
こんなのは久しぶりだ。夜くんはそれを単にひとつの行為と捉えてるのであって、相手は別に誰でも良かったはず。
お互いに気持ちのない口づけ……。交わるだけのそれ。
それなのに何故鼓動は波打つんだろう。理由は特にないけれど、この事実を表に出すのは些か躊躇われて、
――ひっそりと、胸にしまった
なんだか酷く、感じてはいけない想いのようで。
背徳感と共に奥へ奥へ、押しやった。
苦いと解っていたビターチョコを口にしたら、思いの外甘過ぎた。
…そんな気分だった。
狂わされた調子を取り戻したかったのか、自然とやめていた煙草に手が延びる。
立ち上がると、私はベランダの方へ無言で歩み寄った。
「……」
後ろの彼も私の行動について何も言わない。
それでも、私を追って腰をあげたようだ。ひんやりとした気配で感じとった。
―――カラカラ、
ベランダの扉を開け、迷わず手すりに近づいては両手でそれを握る。同時、無意識に顔を空高く上げた。