ずっとずっと追いかけてきた川瀬先輩の背中が…
明日からは見えなくなる。
この学校から…
体育館のコートから…
川瀬先輩はいなくなる。
「希~」
感慨深く体育館を眺めていた希に
後ろから走ってきた友達の奈美が元気に声をかけた。
「いよいよじゃん?」
ニッと、からかうような笑みを浮かべながら
奈美が希のわき腹を肘でつつく。
「言わないでよ~…
やばいくらい緊張してるんだから…」
希の心拍数はもう今までの最速記録を超えていて…
心臓はもう自分のものではないような気さえしてくる。
誰かが意図的に早く動かしているとしか思えない。
「しっかりしなよ~。
今日が最後なんだからね?
ちゃんと分かってる?」
びしっと人差し指を立てながら言う奈美に
希がゆっくりと頷いた。
正門から玄関までの通学路に植えられた桜はまだ咲く様子もなく…
蕾が少し膨らみ始めたくらいで…
青い空に枝だけの桜がなんとも寂しく感じる。
今日は3月1日。
川瀬の…
3年生の卒業式。
ずっと前から…
この日を待っていた。
告白をするために…
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