「…どれ?」
希の視線の先には学ランを持った川瀬が立っているだけで…
ボタンの代わりのものは持たれていないように見えた。
希が不思議そうに見つめている先で…
川瀬が右手の親指で自分の胸の辺りを指す。
「これ」
言ってる意味がわからなくて…
一瞬、うれしい事が頭に浮かんだが
それが正しいのかどうかわからなくて…
希が何も言えずにいると
川瀬が少し笑って話し出した。
「つぅかさ、決めんなよ(笑)
あんなスリーポイント。
…オレ、絶対負けないつもりでやってたのに」
そう言って、川瀬が転がるボールを拾う。
はぐらかされたようにも取れる言葉を聞きながら
希は川瀬を見つめていた。
川瀬がさっき希がシュートを打った場所に行き、
リングを見据える。
きれいなフォームからシュートが放たれて…
リングの枠に当たることなく網に吸い込まれた。
…ダン……ダン…
落ちたボールが小さく弾みながら止まる。
「オレ、藤倉が好きだ」
リングを見つめていた川瀬が不意に言った。
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