「あ、あのっ…」


突然、突き飛ばされたせいで
違うドキドキまで混ざって…

異常なくらいの早いテンポで心臓が動いていた。



目の前では

川瀬が希の好きな笑顔で笑っていて…



その笑顔に…


希が手を握り締める。



「あの…


第二ボタン下さいっ!!」



「あぁ、ボタン?」


川瀬のあっさりした返事を聞いて


自分が

『好きです』を言い忘れた事に気が付いた。



かと言って今から言いなおせる雰囲気でもなくて…


少し肩を落とした希が頷く。



「はい…」


「勝負に勝ったらやるよ」


「…はい?」


拍子抜けした声を出しながら顔を上げた希の視線の先で

川瀬がにこっと爽やかに笑った。



「第二体育館行こうぜ」


「…はい」


校門前にたまる生徒の波をどんどん進む川瀬に

希もいまいち理解できないままついていく。


卒業式が行われていた第一体育館とは違って
第二体育館は静まり返っていた。


いつもならバレー部が練習を行っているコートも

今日ばかりは誰もいなかった。



川瀬が倉庫からバスケットボールを取り出して
希にパスする。


たまにバスケ部も使うため、
第二体育館にも一通りの練習ができる道具は揃っていた。



「ルールはオレが左手のみのワンオンワン。

藤倉が勝ったらボタンやるよ」


そう言って川瀬が学ランを脱いで適当に投げる。


Yシャツの袖を捲り上げて笑顔を向ける川瀬にドキドキしながら…


希がコートに入った。




.