月の下でキスと罰を。


 帰りたい。瀬良の居るあの家に帰りたい。あたしは、来る日も来る日も、ガラスケースの中で帰れるように祈っていた。

 どれくらいの間なのかは分からないけれど、太陽が昇ったり沈んだり、雨が降ったり風が強かったりしているのが、リビングの大きな窓から見えていた。

 あたしは相変わらずガラスケースの中。


 祈っていた。

 瀬良の家でよく流れていた歌を思い浮かべながら。

 毎日のように聞いていたから、言葉も覚えてしまったんだ。「アヴェ・マリア」という言葉しか使われない歌。その言葉だけを繰り返す。瀬良が気に入ってる歌。どんな意味かは知らないけれど、きれいで、胸が落ち着く感じがする。