「……でも」
瀬良は遠慮がちに、しかしはっきり言った。
「寂しいみたいだ。たまにケースから出して声をかけてやってください」
蘭子を振り返って、瀬良は言った。
「……そう、分かったわ」
蘭子は、腑に落ちないような顔をして瀬良の言うことを聞いたが、あたしの頬をティッシュで拭き終わった瀬良の手を取って導き、ガラスケースを閉めた。
ティッシュには少し、埃が付いていた。
「今日は、夫は帰ってこないわ。だから呼んだの」
背の高い瀬良の首を抱く蘭子。甘く囁いて、体を引き寄せる。名前をいとも簡単に呼んで、そして自分のものにする。
羨ましさで目眩がする。瀬良が触ってくれなければ、あたしは自分からは近付けない。
あたしが居る場所からは、窓のカーテンが半分閉められている部分のせいで、少し影に隠れて見える二人の姿。
やがて蘭子の切なげな息づかいが聞こえてくる。
「……あなた、いままでもこうしてきたんでしょう。食い繋ぐ為に」
目蓋にかかる瀬良の髪の毛を、蘭子は柔らかな指で梳く。長い睫毛が影を落とす目は、あたしの方を見ていた。
「僕は……悪い事だとは、思ってません」
クッと、蘭子が笑う。
「人形師の才能、世間が注目するわ……あなた自身の魅力にも、ね」
吐息混じりにそう言うと、瀬良にしがみつく。
瀬良は遠慮がちに、しかしはっきり言った。
「寂しいみたいだ。たまにケースから出して声をかけてやってください」
蘭子を振り返って、瀬良は言った。
「……そう、分かったわ」
蘭子は、腑に落ちないような顔をして瀬良の言うことを聞いたが、あたしの頬をティッシュで拭き終わった瀬良の手を取って導き、ガラスケースを閉めた。
ティッシュには少し、埃が付いていた。
「今日は、夫は帰ってこないわ。だから呼んだの」
背の高い瀬良の首を抱く蘭子。甘く囁いて、体を引き寄せる。名前をいとも簡単に呼んで、そして自分のものにする。
羨ましさで目眩がする。瀬良が触ってくれなければ、あたしは自分からは近付けない。
あたしが居る場所からは、窓のカーテンが半分閉められている部分のせいで、少し影に隠れて見える二人の姿。
やがて蘭子の切なげな息づかいが聞こえてくる。
「……あなた、いままでもこうしてきたんでしょう。食い繋ぐ為に」
目蓋にかかる瀬良の髪の毛を、蘭子は柔らかな指で梳く。長い睫毛が影を落とす目は、あたしの方を見ていた。
「僕は……悪い事だとは、思ってません」
クッと、蘭子が笑う。
「人形師の才能、世間が注目するわ……あなた自身の魅力にも、ね」
吐息混じりにそう言うと、瀬良にしがみつく。



