「もし、俺の事嫌いじゃなかったら。」

長い腕がしかやかに伸びてくる。

「友達からでもいい。」

私の髪に触れ、頬をなぞる。

「昔のように。」

そしてその親指が唇に触れた時。

思わず身体を強張らせている自分がいた。

時が止まってしまったかのように、短くて長い時間。

大きな影が私に重なり、優しい瞳が静かに近付く。

「!!……やっ!!」

顔を背け、自分で自分の両腕を掴んでいた。

「………そうか。」

野口先輩がどんな表情なのかは解らない。

でも間違いなく沈んだ声。

「…誰か好きなヤツ、いるんだ。」

それは自身に言い聞かせるように。