「お前、補欠の家わかる? 行ってきてくんない?」


ぽう。


「伝書鳩みたいにさ。行って、伝えて来てよ」


ぽう。


「いいじゃん。どうせ、暇してんだろ?」


ぽう、ぽう、とニ連続で点滅した直後、蛍はふわりと飛び立った。


「あっ! 待て、こら。まだ伝言言ってないだろ! 聞いてから行けよ!」


とっさに捕まえようと手を伸ばした時にはもう、蛍は霧雨に濡れた夜の町に消えて行った。


「いいな、蛍は。羽根があって」


呟きながら、霧雨の夜空を見上げた。


雨に濡れて、月も溶け出しそうだ。


羽根が欲しい。


蛍みたいに、鳥みたいに、空を自由に飛べる羽根。


翼が欲しい。


飛行機みたいに、高速スピードで飛べる翼。


そしたら、あたしも、今すぐに飛び立って、会いに行く事ができるのに。


それで、この気持ちと決意を伝える事ができるのに。


あたし、あの蛍みたいに羽根なんてないから、飛んで行ったりできないけど。


補欠が望むなら、なる。


あたし、太陽になる。


太陽になって、毎日、元気な光で照らしてあげる。


あの、グラウンドも、頑張る補欠のことを。


太陽になりたい。


補欠が蛍のような優しい光なら、あたしは太陽みたいな元気な光に。


補欠が夏に映える青空なら、あたしはそのブルーにつり合うような、まぶしい太陽に。


太陽になって、いつも、補欠を見つめて照らし続けるんだ。


うぜえよ、もう見んなよ、って呆れられるくらい。


見つめてやろうじゃないか。


蛍が命がけの恋なら、太陽は死にものぐるいの恋だ。


今に見ておれ、ノストラダムス。


あたし、病気なんかに負けない。


とっとと治して、退院して、それで。