「美風?」

「…おおお降ろしてくださいっ…あ、歩けますっ…指も大丈夫です…
いいいいつものことです…っ…。」

「やだーって言ったら、美風は困っちゃう?」

「え…?」


美風が少しだけ顔を上げた。
その瞳はやっぱり少しだけ潤んでいる。


「あのね、美風。
美風が初めてボクの仕事場に来た日のこと、覚えてる?」

「えっと…は…はいっ…。」

「さて、問題です。
今日は何の日でしょう?」

「え…?」

「よぉーく考えてごらん?
君はいつ、ここで働きだしたの?」

「えっと……。」


ゆっくりと記憶を引っ張り出す美風。
いつしか、指の血は止まっていた。





「あ!」

「思い出した?」

「は…はいっ…丁度1年前…。」

「そ!1年前だよ。ボクね、あの日すっごく嬉しかったんだよ?」

「…嬉しい…?」

「うん。あの日…ね…。」