【紫紀side】



「いた…ような気がする。」

「なんだいきなり…。」

「華央が…いたような…。」

「そうか…。やはり雪の夜にはいるのだな。」

「…連れてきてくれてありがとう。」

「礼はもういい。もう充分だ。」

「…少しだけ…前に進めたような気がする。」

「そうか。」


俺は握ったその手に少しだけ力を込めた。
彼女を、華央を想うように想っているのかと言われれば、必ずしもそうではない。
でも、今こうして彼女が寄り添ってくれることを嫌だなんて思わない。
むしろ…とても心地良い時間が流れている。


「そろそろ戻るか…。」

「いいのか?『気がする』だけで。」

「ああ。それでいい。」





俺はゆっくりと進み出した。
君を忘れることは出来ないけど、それでも…確実に前に。

過去にとどまっていることはしないけれど、時々振り返らせてほしい。
薄れゆく君の香りを思い出すために。

今晩はどうやら雪が止みそうになかった。