なるみは桐谷も同じおばあさんを助けようとしてぶつかった話から真樹に説明した。
それは言い訳ではなくて、ただありのままの話として。
真樹はにこっといつもの笑顔でなるみの部屋の玄関に立った。
「顔洗ったらこっちに来てくれないか。
伊織と食事して3人で出かけよう。」
「どこへ行くんですか?」
「ミニ家族旅行さ。行き先は・・・温泉。」
「やった、温泉なんだ。
それって2人がお疲れって理由だけなんじゃ・・・」
「あはは、そうとも言うけどね。
あ、伊織に裸見られるのが嫌だったら水着持って来るといいよ。」
「どうしてお兄ちゃんなんですか?」
「そりゃ、伊織の方が変質者扱いされるでしょ。
僕は女性に追われることはあってもトラブルにはならないからね。あははは」
「すごい自信・・・。」
なるみは出かけるまでは少し緊張していたけれど、久しぶりの旅館のサービスに驚いたり、喜んだりで、単純に楽しんでいた。
最初に3人で水着で利用できる温泉プールで遊んだ後、夕飯後なるみは女湯へと向かった。
すっかりご機嫌で部屋へもどる途中のなるみだったが、エレベーターの前で片膝を着いてしまった男と遭遇した。
顔が青白くなり、冷や汗をかいている。
「どうしたんですか?気分が悪いんですか?」
年の頃は30前後に見えるその男はコクリと頷いた。
なるみは近くにあった待ち合わせ用のソファに男をなんとか誘導し、休憩所からコップに水を入れて男性に飲ませた。
すると少し、男の様子がおだやかになった。
「貧血みたいな感じですね。・・・あ、旅館の人を呼んできますね。
きちんとお医者さんに診てもらわないと。」

