桐谷が近くの駐車場に停めていた車までお婆さんをおぶって運び、荷物はなるみが持って車へ積み込んだ。
お婆さんは町の中の人だったので、家族のいる家まで簡単に送ることができた。
「この後何か用事ある?」
「えっ・・・門限まではべつに。」
「約束守ってもらおうかななんて。」
「あっ、デートの・・・わ、わかりました。」
桐谷はこの町のデートマニュアルどおりともいえるような順番になるみを連れまわしたあげくに寮の近くの森までもどってきた。
「きりちゃん先生、私のせいで痛い出費だったんじゃないですか?」
「いや、そんなことはないよ。
なるみちゃんは僕に何もねだらないし、さびしいくらいなんだけど。
あれ、もしかして・・・僕ってそんなに貧乏に見える?」
「ご、ごめんなさい。
だって・・・きりちゃん先生っていつもラフなシャツとジーンズばかりだし、車に乗ってるのが不思議なくらいに勝手に思っちゃって。」
「そう・・・そりゃ、正直だねぇ。
なるみちゃんの保護者さんは僕と違ってかなりのおしゃれだもんな。」
「はい。でも普段着はお安いシャツとエプロン姿です。」
「仲直りしたんだね。
じゃ、進路も決まったのかな。」
「ええ、上の短大へ行くことにしました。
もちろん保育目指すつもりで、ですよ。」
「そう、よかったね。
保育園にもときどき来てね。
園長先生がまた来てほしいって言ってた。
あ、それときよしの母ちゃんだけど、お迎え時間が早くなったよ。
上司が早く帰してくれるって言ってたけど、なるみちゃんのおかげかな。」
「そんなことないですよ。
真樹さんが気をきかせてくれたんだとは思うけど・・・。
それに、真樹さんはきよしくんのママの愛人じゃありません。
きよしくんと困っていたのを助けてあげただけなんです。」

