虹が見えたら

ふと、なるみは自分の口を手でふさいで俯いた。
熱でうなされている病人相手に、こんなにむきになってしまった!と気がついた。


「ごめんなさい!(病気のときは誰でもいいからそばにいてほしくなるのは、当たり前の気持ちなのに・・・)」


数秒後には真樹は眠りの息遣いになっていた。


それから1時間ほどして、部屋をノックする音がした。

呼び鈴ではなくわざわざドアをたたくなんて?と思いながら外をのぞくと、きよしの母親が立っていた。


驚いてなるみはドアを開けた。


「おはようございます。伊織さんにきいたら、あなたと看病を交代してほしいと言われまして・・・。」


「えっ、どうしてきよしくんのママが?」



「あ、やっぱりあなたは桐谷先生といっしょにおられた方だったんですね。
私は須賀浦社長の秘書兼出張所長をさせていただいています。」


「社長って・・・誰がですか?」


「だからそちらの・・・真樹社長ですけど。
ご存じなかったんですか?」


「寮と小さなマンションのオーナーだって話はきいたけど、私・・・。
じゃ、もしかして・・・きよしくんのお父さんって」


「まさか勘違いされてます?
きよしの父親はTSWコーポレーションの常務をしていた人です。
須賀浦直樹社長の会社といえば、わかっていただけますか。

今より若かった頃、バカだった私は自分の実力が認められて役付きになったと思っていたんです。
そして常務の子どもを身ごもって。

でも、結局そうじゃなかった。
妊娠を期に仕事からおろされて、常務から中絶をせまられてしまって。
結局あっちは不倫だったんです。

子どもを産んで育てるなんてほんとに悩みました。
叔母が保育園をしていることもあって、乳児期間が過ぎたらみてもらえる返事をもらったんですが、大きなお腹を抱えてTSWのロビーで落ち込んでいた私を真樹社長が呼んでくださったんです。