伊織の話によると、真樹は一晩中なるみを捜していたという。
このところ本業が忙しく、本社で夜まで仕事ということもあり、その後管理人の仕事をこなしていたらしい。
夜明け前に外で倒れたところを伊織が助けて、救急診療所で診察を受けとりあえず肺炎には至らずに済んだとのことだった。
「そんな・・・そんな・・・どうして・・・。」
「どうしてなんだろうな。
何か気にしていたようだが・・・本人が目を覚ましたらきいてやれ。
じゃ、俺は朝食の準備があるからいってくるわ。
あと、頼むな。」
「はい。」
なるみは時折り苦しそうな息遣いをする真樹の手を両手でつかんで自分の頬にあてた。
「私わからないです。
きよしくんのママにキスされたり、一晩中私を捜したり・・・何を考えていたんですか?
何がどうなってるんですか?
どうして、そんなに私を構いたがるんですか。」
すると目をつぶったまま、真樹がつぶやいた。
「はぁはぁ・・・愛する人を捜そうとするのは当然でしょ。
なるみちゃん、もどってきてくれたんだね。
手を・・・手を離さないで。
あの・・ね、昨日の女性は・・・はぁはぁ・・・支店長をしている人で、保育園のお迎えが遅れるって困っていたから、僕が・・・帰るついでに送っただけ・・・。
信じて・・・。」
まだ下がりきらない熱のせいもあってなのか、真樹は半分うわごとのようになるみに説明していた。
なるみは涙まじりの苦笑いになって、真樹の手を握りしめた。
「もう・・・その甘え方は嫌です。
ずるいです。私どうしたらいいのか困っちゃうじゃないですか。
許さないって言えるわけない・・・。
それに一晩中だなんて・・・そんなことしないでください。
そんなことされる値打ちなんて、私には・・・」
「あるんだ!はぁはぁ・・・逃げないで。
したいことをしていいから。
好きな人がいるならそれでもいい。
だけど、ここに帰ってきて。」
「なんでそんな言い方するんですか。
好きな人のところへ行ってもいいからなんて・・・言ってほしくないのに。」

