なるみは伊織に花咲保育園に行くことを告げて出かけて行った。

保育園に着くと、園長先生が迎えてくれた。


「桐谷先生からお話は聞きました。
それで、あなたのことを少し調べさせてもらったんだけどね」


「あの、両親がいないと先生にはなれないんですか?
奨学金もらって専門学校へ入るのはダメなんですか?」


「いえいえ、そんなことはないわよ。
身寄りのない学生さんだって、しっかり勉強して立派な先生になってる人もたくさん知ってるわ。
そうじゃなくてね・・・あなたは今、流沢学院高校なんでしょう。
だったら上の短大に進めば保育のコースがあるから、そのまま進学した方がお値段も安く勉強できるんじゃないかしら。

お住まいだって新しく探さなくていいし、教育条件はずっといいはずよ。
講義の合間にここに見学に来たりお手伝いしていただけると私たちも助かるし、力になれると思うんだけど。」



なるみは少し不自然な笑顔で答える。

「そ、そうですよね。うちの上にも保育コースがあったんですね。
近すぎて私よくわかってなかったです。あははは・・・」


そして、きよしがなるみが来たことに気がついて、いっしょに遊ぼうと手を引っ張りにきた。
なるみは、考えるのは帰ってからだと気持ちを切り替えて暗くなるまで子どもたちといっしょに遊んだ。


その日、きよしの母はいつもより30分遅くなると園に連絡が入った。


「あいかわらず、きよしくんのお母さんはお忙しいんですね。」


「今週はとくに遅くなりがちみたいだね。」

桐谷ときよしの母親が迎えに来るのを待っていたなるみだったが、30分たってもまだきよしの母親は到着しなかった。


「かなり遅くなったね。先に帰ってもらえばよかったなぁ・・・。
お迎えがきたら、なるみちゃんの寮まで送っていくよ。」



「あ、いいです・・・そんな。
寮と兄には連絡いれときましたし」


「流沢学院の寮から僕の家って近いんですよ。・・・じつはね。
遠慮なさらず。ねっ」



「えっ・・・そうだったんですか。」