こんなに真樹を怒らせてしまったのは初めてだとなるみは思った。
心配をかけることはあっても、後でこれほど睨まれたことなどなかった。
いつもは「なるみちゃん大丈夫?」ってきいてくれるのに。
それはいつもなら、居場所や何時になったら帰ると伊織や寮長もしくは寮の友達の誰かに電話で伝えていたからだった。
今日は、桐谷の話やきよし君の相手やらですっかり忘れていたのだ。
なるみは、進路についてヒントを得るのに街を歩き回ったことや保育園の話をした。
けれど、桐谷のことはとくに話さなかった。
真樹は今後は気をつけるようにと注意しただけで、なるみの前を過ぎて玄関から帰ろうとしたが急に振り返ると、なるみの両腕を強くつかんで玄関前に座らせ体をゆするようにしながら声をあげた。
「で、本当は何があった?
僕に言ってないことがあるでしょう。
言えないようなことをしてきたの?」
「えっ・・・嘘なんてついてない。
ほんとに保育園で働けたらいいなって見学させてもらって、今度専門学校の資料とか先生が用意しておいてくれるって。」
「先生は男?
説明するのに、なるみちゃんの体に触れながら説明してたのかい?」
「そんなことしてません!
ほんとに説明しかきいてない。命かけたってほんとです。」
「説明のときは何もなくても前後に抱かれたんじゃないかと僕は予想するんだけどね。
どうしてなるみちゃんの服や首筋から男用の化粧品の香りがするのかと思って。
言い訳ならいちおうきいてあげるけど。」
なるみ自身は保育園にお姫様抱っこで入ったことなどすっかり忘れてしまっていた。
自分の目標が見つかったことと独立できる未来の夢でいっぱいな気分だった。
「それは・・・保育園の前の公園から保育園の中を見ていて、それからそこの保育園の男の子が私が怪我して動けないんだと勘違いしてそばにきてくれて。
それからその子から話をきいた男の先生が走ってきて、医務室で手当てをっ保育園まで担がれていって・・・。そのときに・・・」
「そのときに抱き合ったんだね。
どうして、それを最初に言わなかったの。
僕がこのまま帰ったら、ラッキーだったのかな。」

